W杯観戦記
(ナイジェリアvsイングランド)



3日くらい前から、台風4号の動向が気になってはいた。予想天気図では、「その時」「その場所」に台風がいることになっている。しかし、俺は極端な晴れ男だ。イベント事で雨に遭うことはめったにない。今回も大丈夫だろう。

 

はたして、その日は晴れだった。家族でイングランドのユニフォームを着て(うちの奥さんはマンUのユニフォームだったが・・・)、自宅からバスで小倉駅に向かう。バスの中でもかなり視線を感じる。われわれが何をしに行くのかは一目瞭然だ。小倉駅から新幹線に乗ったが、切符の確認にきた車掌さんに「サッカーの応援に行くんですか?」と聞かれた。やっぱり目立っているようだ。同じ車両に30人くらいの外国人の団体がいて、てっきりイングランドの応援かと思ったが、新大阪では降りなかった。「なんだこんなもんか」新幹線の中あたりはもっとワールドカップモードになってるかと思ったので、ちょっと拍子抜けした。

 

ところが、改札を抜けるといきなり景色が変わった。小倉を出るときあれだけ目立ってたわれわれのユニフォーム姿が、突然違和感が無くなった。新大阪駅でこんなに多くの外国人は見たことないぞっていうくらいの外国人。しかもみんな白と赤。肩を組んで応援歌(?)を歌ってる連中がいたり、久しぶりの再会なのか、大声で叫びながら抱き合う人がいたり、・・・。もちろん日本人もどんどん出てくる。

 

新大阪駅から地下鉄御堂筋線に乗り換える。各会場ともスタジアムの席によって下車駅が決められている。(下車駅の指定があることを知らない人だっているだろうけどね。)俺の席はB4ブロックだから指定の駅は長居駅だ。地上への階段を上りきったところで、まずスタジアムまでの案内図のチラシを受け取った。実は、最初そのチラシを何かのセールスだと思って、新橋の駅前あたりで配っているポケットティッシュと同じ感覚で、無表情で受け取ってしまった。あとでよく考えると、渡してくれたのはボランティアのおじさんだった。何で「ありがとう」のひとことくらい言って、笑顔で受け取ってあげなかったんだと後悔した。この場を借りてお礼を言います。暑いのにお疲れさまでした。

 

さて地上に出ると、そこは雪国・・・もといっ、ワールドカップだった。

ディズニーランドに行ったことがある人はわかると思う。ゲートをくぐると、突然、空間全てがディズニーランドになってしまうあの感覚を。ディズニーランドの場合は人工的だが、ワールドカップの場合は自然発生的なものだ。

 

地下鉄の出口を出たところが、ちょっとした広場になっていて、そこからスタジアムまではもうすぐだ。キックオフまで3時間あるにもかかわらず、広場はすでに賑わっている。ここでもやっぱり、ほとんどが白と赤。道端でユニフォームやピンバッジを売ってる奴。「チケット譲ってください。I NEED A TICKET」と書いた紙を持ってうろうろしてる奴。(これは何人もいた。日本人も外国人も・・・。それぞれどういうシチュエーションかはわからんが、日本人はまだしも、もしイングランドの人ならかわいそうだなあ。)もちろん怪しげなダフ屋も・・・。(なぜか外国人ばかり。「チケットアル?」)

 

とりあえず、飲み物や食べ物をゲットしようと交差点の向こうのコンビニへ・・・。向こう側の路上(歩道)でもやっぱりユニフォームを売っている。コンビニの前では携帯テレビを売っていた。スタジアムに持ち込むのか、チケットを持たない人が見るのか?

コンビニの中は混んではいたが、飲み物や食べ物は十分あるし、ごった返すというほどではない。やはり、混雑を避けようと早めにスタジアムに着いたのが奏効したか。ペットボトルが持ち込み禁止だというんで、牛乳パックみたいな紙パックの麦茶とおにぎりを買った。ビールはスタジアム内でいいや。

 

広場に戻って、いよいよスタジアムへの道を進む。途中でチケットを確認され指定の方向へ。老若男女のボランティアの人が道沿いにかなりいる。そのうちのひとりから小さい包みを渡される。「お疲れさまです」今度はお礼が言えた。でも「お疲れさまです」って関係者と勘違いされそうなセリフだな。なんかうまい言い方が無いかと考えたが、浮かばなかった。渡されたものの中身は透明のビニール袋だった。「金属類はあらかじめこの中に入れておいてください。」なるほど、飛行機に乗るときの要領だな。カメラや小銭入れ、携帯電話などを入れる。

 

しばらく進むと、道の脇の木立が賑やかだ。何だろうと思って見ると、イングランドとナイジェリアのサポーター同士で、木の間をゴールに見立ててPK合戦をやっている。な〜んだ、和気あいあいじゃん。これもワールドカップか。

 

さらに歩くとスタジアムへの入り口が見えてきた。さっきからスピーカーで「缶ビールや缶ジュースはスタジアム内に持ち込めません。飲み残しはここで紙コップに移してください」とアナウンスしている。売店や自販機で買ったビールで宴会を始める奴もいる。キックオフまではまだ3時間近くある。どうしようかと考えたが、とりあえず中に入ることにした。

 

入り口でチケットを見せて中に入ると、また席のブロックごとにゲートが分かれている。ここでようやくチケットの半券が切り取られ、ボディチェックされる。金属探知機を身体に当てられただけで、意外に簡単なチェック。特に問題なく終わって、いざスタジアム内へ。

 

席のほうに向かう。メインスタンドの記者席の下で、前から13列目。かなりいい席だ.。観客席はさすがにまだ空席が多いが、それでも殆どがイングランドサポーターだ。90%以上と言ってもいいんじゃないか。

時間があるので、とりあえず売店でも見てこようと思い席を離れた。飲み物や食べ物の売店のほかに、グッズのコーナーがあった。何はともあれ公式パンフレット(2000円也)をゲット。中身はあんまり面白くないが、とりあえず記念だ。

ビールを買おうと思ったら、キックオフの90分前からしか販売しないとのこと。

道理で、さっきからスコールズみたいなおっさんがふたり、ひまそうに売店の横でたたずんでるのか。

 

一旦自分の席に戻った。まだ2時間もあるなあと思ってたら、いきなりFMラジオのDJみたいな場違いなノリの男女が現れた。これからミニコンサートかなんかをやるらしい。綾戸千絵とコブクロだそうだ。それでは拍手でお迎えください〜!・・・とか言われてもなあ。でも、なかなかよかったよ。

 

そろそろ90分前になるということで、ビールを買いに再度売店へ。すると、あたりの様相が一変している。顔を真っ赤にしたイングランド顔した連中が大声で盛り上がっている。てめえら、酒弱いんだろ!

 

ビールを買って席に戻ると、かなり観客席も埋まってきていた。前の席に座った若いにいちゃんが話しかけてきた。「ようチケット取れましたなあ。え?定価でっか。へえ〜、やっぱり定価で手に入れた人もいてんねんなあ。大きな声じゃ言えまへんけど、僕なんか4万円払うてまんねん。(うちの次男の頭をなでながら)せやけど、この子が生きてるうちにまた日本で開催することはないでしょうね。高い金払う価値ありますよね」と嬉しそう。

なんか、いい感じのにいちゃんだなあ。

 

そうこうしてるうちにアップしに出てきましたよ、両チームが!!生ベッカムはトヨタカップ以来。いやあ、ベッカムのモヒカンは想像以上に目立つ。なんかメスばかりの孔雀の中に、1羽だけオスの孔雀がいるみたいだ。黙々とアップするナイジェリアに対し、並んでジョギングしながら観客席に近づいてきて、両手を挙げて声援にこたえるイングランドチーム。それを見てまた大歓声。う〜ん、自分たちの日本での人気をしっかり自覚したうえで、観客を味方につける憎いパフォーマンス。ちゃっかりホームにしてしまっている。

 

アップが終わり、選手達は一旦控え室へ。ウェーブが2回ほど回ってきたので参加する。オーロラビジョンにはあっちこっちの観客席が写っている。スカパーでよく見るように、写ってるのに気づいた奴らが手を振る。そのうち会場中の大声援になったので、何だろうと思ったら、オーロラビジョンに「数少ない」ナイジェリアサポが映っていた。判官びいきというべきか。

 

そして、いよいよユニフォームに着替えた両チームの入場。先頭はもちろんベッカムとオコチャ。黄色いお揃いのユニフォームを着た子ども達の手を引いたテレビでおなじみの光景がすぐそこに。続いて国家斉唱。選手をアップで映すカメラは異常接近している。よくあれでまっすぐ前を向いてられるなあ。

 

コイントスが終わりエンドが決まると、さあキックオフだ。思ったよりあっけなく始まった。まあ、別にカウントダウンで始まるわけじゃないし、こんなもんかな。

しかし、ナイジェリアの選手はうまいなあ。特にオコチャのキープ力はすばらしい。2〜3人に囲まれてもすり抜けてしまう。それに胸トラップの柔らかいこと。スポンジでも入れとんのかい!

 

一方のイングランドはごく普通のでき。引き分けでもOKってことで、負けないサッカーって感じか。ただすばらしいのはサポーターの応援のタイミング。ちょっと試合が硬直したり、試合の流れがイングランドに向いてない時や、逆に好プレーをしたときに絶妙のタイミングで手拍子が入る。

タン、タン、タタタン、タタタタ・・・タタッ!

そう、TOKIOがビールのCMでやっていた「カン!パイ!ラガー!・・・」のあの手拍子ね。で、最後の「タタッ!」のところには「Eng-land!」ってのが入る。(ときどき「Beck-ham!」になってたような気もするが)



考えてみれば、ほとんどイングランドのホーム状態で、敗退の決まってるナイジェリアに引き分ければいいというシチュエーションなら、そりゃ試合はまったりするわな。

というわけで、特段の見せ場もないままのスコアレスドロー。

試合終了後も歓喜の渦ってほどのこともなく、ベッカムも観客席に向かって手を叩きながら淡々と退場。

 

さて、そろそろ出口へ向かうか。多少の混雑はあったが、しばらくしてクールダウンで出てきた選手を見たり、(テレビで見た人も多いだろう)大きなワールドカップの模型を持ったサポーターの騒ぎを見てたら、特にイライラもせずにスタジアムを出ることができた。

スタジアムから地下鉄方面に向かう途中で情報が入った。なんとアルゼンチンがスウェーデンと引き分けて予選敗退が決まったらしい。いきなり開幕戦でフランスがセネガルに敗れるなど波乱の多い大会だが、「死のFグループ」に関しては、波乱そのものが予定通りだったのかもしれない。

 

地下鉄への道は途中で混雑し、列が動かなくなった。ちょっとインチキして横道にそれ、木立の中を抜けてショートカット。このインチキのおかげで帰りの新幹線には十分間に合った。

 

新幹線のホームでオーストラリアから来たという外国人数人に会った。イングランドのユニフォームを着てたので、てっきりイングランドのサポーターだと思っていたが、これから別府まで行き1泊して、大分でメキシコ−イタリアを観戦するという。

「別府には有名な温泉があるよ。」

「もちろん知ってるよ。だから別府に泊まるんだよ。」

しっかり観光している。大分ではイタリアのユニフォームを着るんだろうか。なんか急にホスト国であることを意識してしまった。ワールドカップと日本をめいっぱい楽しんで帰ってくれよ。

 

2002年6月12日はこんな風にして終わった。この日、大阪で、俺は間違いなくワールドカップを感じてきたのだった。

(23rd Jun, 2002)


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